人工心臓

人工心臓の研究

は、東京大学が世界のパイオニアとして50年近くの歴史を持っており、当研究室を中心として学内外の多くの研究者が参加して研究チームを組み精力的に研究と開発を推進しています。人工心臓には、心臓を切除して置換する完全置換型人工心臓(TAH: total artificial heart)と、不全心臓に装着してポンプ機能を補助する補助人工心臓(VAD: ventricular assist device)とがあります。日本語ではどちらも人工心臓ですが、欧米では区別されます。東京大学人工心臓研究開発チームは、TAHを中心として総合的な研究と開発を行っています。その内容は 、血液ポンプ、駆動機構、人工弁、カニューレ・カフ、医用材料、埋込センサー、生体計測技術、制御アルゴリズム、経皮電力伝送、経皮情報伝送、バッテリー、IT監視システム、数値流体解析、循環生理や病態生理の研究など多岐に渡ります。


ハード

現在、当研究室では、螺旋流ポンプという新しい連続流血液ポンプを用いたTAH(HFTAH)の研究と開発を行っております。この血液ポンプと今まで蓄積されたノウハウと技術およびハイブリッドパーツを用いて、血栓形成や感染の心配が無く、かつ心臓移植の治療成績を超える体内完全埋込式TAHを完成させることを目標に、日々研究と開発を行っています。HFTAHは、モーター駆動による体内埋込式TAHであり、日本人女性のような小柄な体型の人に埋め込めるサイズに設計されています。また、動圧軸受けを使用してインペラーは非接触で浮上回転する構造となっており、耐久性の著しい向上が見込まれます。次世代のTAHを開発する上で、性能・効率・耐久性いずれを考慮しても連続流血液ポンプの使用は必須となると思われますが、連続流血液ポンプは基本的には無拍動流を駆出します。生体にとってどの程度の拍動流が必要かまだ十分には分かっておりませんが、現在までの研究で、拍動流から無拍動流に切り換えても実験動物の一般状態に変化はありませんが、心房のサッキングを防止するために心房圧を高めに設定しなければならないという問題があることが分かり、ある程度の拍動流が必要であることが示唆されています。HFTAHは、モーターの回転数を調節してある程度の拍動流を駆出するように駆動されています。 現在、 HFTAHは、慢性動物実験の段階に達しており、抗凝固療法無しで最長100日の生存を達成しました。


ソフト

TAHの場合、時々刻々と変化する必要心拍出量をどのように判断し、駆出するかという制御(生理的制御)が非常に重要です。生理的制御としては、末梢血管抵抗の逆数(1/R)を入力として心臓血管中枢によるフィードバック制御を可能とする1/R制御があります。1/R制御は、当研究室において、長い年月をかけて慢性動物実験により開発した世界で唯一の生理的制御法です。1/R制御では、中心静脈圧の上昇、軽度貧血、甲状腺ホルモンの低下などのTAHの実験動物に特有に見られた病態が生じず、また代謝に応じて自動的に心拍出量が変動します。1/R制御によりTAHの生存時間は飛躍的に延び、体外に血液ポンプと駆動装置を置く空気圧駆動方式のTAHで最長532日の生存実績(TAHの動物実験としては現在でも世界最長生存記録)があります。1/R制御をモーター駆動方式のTAHに適応するには種々のパラメーター変換が必要ですが、現在までに、1/R制御をHFTAHに移植することに成功し、慢性動物実験による病態生理を研究できる段階に達しました。
 

波動型完全人工心臓装着ヤギ

HFTAH

Helical flow total artificial heart

Helical flow pump